零細建設業の憂鬱

建設業界のIT化進捗度

 国土交通省が情報化施工という建設産業のデジタル化を打ち出してから、はや10年以上の月日が流れました。途中「i-Construction」と、いかにもな呼称を与えられ、大手所属の業界人であれば一度は聞いたことがある程度に浸透してきたかもしれません。

 ただ、野丁場(比較的規模の大きな工事・ビル建設などを指す)の工事に恒常的に携わる職人さんたちは、所属に関わらず結局の所ゼネコンの指揮下にあるわけで、情報にも触れる機会があるのですが、町場(住宅など比較的規模の小さな工事を指す)の工事を中心に営業する零細事業者まではまだまだITが届いていないと痛感しています。

実際こんな事がありました。とある都市の地域一番とも言われる地場大手のサブコン、経審の評価も高くその地域で知らぬ人はいないぐらい有名で社員数も数十名規模、毎年官民両方の仕事をバランス良くこなしている優良企業での出来事です。

 入社したての経理マンが、ベテランの現場監督さんたちが、全員お昼休憩に一度会社に帰ってくる。という習慣があることに気づいたそうです。

どんなに遠い現場を担当していても、必ず一度は会社に戻ってくる。もしかして、食事は会社で。という決まりでもあるのか?と見ていると食事を済ませている人もいるのでそれが理由ではなさそうです。意を決しておそるおそる聞いてみたところ、「もしかすると、お施主さん(お客様)から、メールが来ているかもしれんだろう。それをチェックしに帰ってくるんだ。」との事。

彼は、あまりにもったいない時間の使い方に心底驚いたそうです。真面目な人であれば真面目な人であるほどもったいない時間が増えていく。

もちろん彼は、会社支給のスマホでメールチェックできる設定を、全員にしてあげてたいそう喜ばれたそうです。冗談のようなお話なのですが、本当にあったお話です。

 

町場の現状

こちらの企業が図抜けて遅れているのか?いえいえ決してそうではありません。程度の差こそあれ、中小零細の建設業では似たようなお話をたいへん多く聞きます。

・高額なリース料金を支払ってホームページを作ったのはいいが、更新の仕方がわからないまま数年経ってしまった。

・業者にメールアドレスを追加してもらうのに、1週間待って、一回あたり1万円支払っている。

・独自ドメインの仕組みがわからず、会社ドメインがあるにもかかわらずメールはフリーメール(Gmail等)を使っている。

 

上記は実際に私がお伺いしたお客様のお悩みです。リテラシーが低いという部分は確かにそうなのですが、ちょっとITの業者さんにも問題が多そうですね。

では、なぜこのような情報格差が生まれてしまうのでしょうか?

私自身は建設業界特有の構造に依る部分が大きいと考えています。



家族経営や小規模経営が中心

国土交通省、総務省の発表によると、建設業を事業として許可を取得している事業者数は約48万社、一方建設業に従事する人口は約498万人と言われています。単純に割算すると1社あたりの人数は10.3人。もちろんこちらには何万人という社員を抱えるスーパーゼネコンや住宅メーカー、数十人の社員を抱える日本全国の地場ゼネコンやサブコンも含まれています。くわえてリフォーム業などで500万円以下の請負の事業者は許可を取得していない事業者も数多くあると思いますので実際の工事業の事業者数はもっと多いと想定されます。それらを考え合わせると組織あたりの実質の人数は4~5名というのが実際の中央値になるような気がしています。

 具体例をイメージ化すると、職人でもある社長さん、現場管理を数十年のベテラン番頭さん、経理担当の奥さん、昔からの無口な職人さん、期待の星である若き職人さん、の5名というイメージでしょうか?

 誤解のないように念押ししますが、家族経営やコンパクトな経営がダメということを言いたいわけではありません。私自身もこのような環境で建設業に従事していましたし、コンパクトでフレキシブルな組織だからこそ成し遂げられるお仕事もたくさん見聞きしています。

 ただ、あまりにもリソース不足なのです。「ITの導入や勉強に割く時間があるなら、少しでも現場をこなしたい」と考えられるのも無理はありません。よく比較される製造業では、就業者数を事業所数で割った数値が34名程度になるのですが、さすがに34名のスタッフがいるならば一人や二人、ITに精通した人もいるでしょうし、効率アップを目標として、社内で専業スタッフ育成にも取り組めるでしょう。

この20年間で、製造業と建設業の生産性にたいへん大きな差(20年で1.6倍になりました)がついた原因もこの構造的な要因ではないかと考えています。

 

変わり始めた小規模建設業

「このままではいけない・・」そんな想いは小規模な工事関係者の皆さんも十分に感じはじめておられるようです。コロナ禍の時代に起こった、テレワークやワクチン接種システムなどIT技術を最大限活用した社会への変容を、目の当たりにしたことが大きかったのかもしれません。

 ITへの取組のコツとしては、ご自身の業務のどの部分にボトルネックがあって、どういう風に解決したいのか?をイメージする事から始めるのが良いと思います。その際、会社の規模と実現したい将来像に合致したツールの選定も重要です。「安価なシステムを契約したが、会社の業務フローにそぐわなかった」と数年後に基幹システムを入れ替えねばならかった。という事例は意外に多く見受けられます。

 

初めに取組むのにお勧めなのは? 

 様々な業務改善ソフトがありますが、小規模な事業所の方にまちがいなくお勧めできるのが、工事履歴の管理などに使える、高機能なデータベース機能を有するアプリケーションです。特にBtoCのお仕事の方には絶大な効果を発揮する事でしょう。

実は、ほとんどの建設事業者は、毎回の工事が完了すると、そのお客様との取引が終わったように錯覚しがちなのですが、お客様の立場からすると、それは「始まり」に過ぎないのです。

お客様は建物にまつわる事はなんでも相談できる「かかりつけ医」のような存在を求めておられるという訳です。初めて担当させていただいた工事で、ご満足いただけたのなら、それを継続しないという選択肢はありません。大手には出来ない「細やかなサービス」で「顧客満足」を高め「紹介」につなげるという姿が「町場」の工事業者の王道と言えるのではないでしょうか。

 工事履歴の管理は勿論なのですが、「施工後何日目に御礼のメール」や「季節の挨拶」や「お誕生日のバースデイカード」などのタイミングをリマインドしてくれたり、それら全部を自動で送付出来たりしたらどうでしょう?

お客様は感激して次の工事の機会もまちがいなくお声がけいただけることと思います。

 是非、高機能なデータベース性能を持つアプリケーションを選んで、貴社のファンとなってくださるお客様を増やしてください。

 

将来に向けた布石

お客様とのやり取りを高機能なデータベースで蓄積することが出来たら、その次には蓄積したデータを活用せねばなりません。もちろん入力する情報はお客様情報だけではありません。様々なデータを多角的に分析する事で、自社の過去から現在に至る状況を「見える化」することが可能になります。

例えば、リフォームを主として営業する会社、A社があったとしましょう。A社では多くのお客様を集客する為に、チラシや広報誌の紙媒体から、ネット広告やポータルサイトへの出稿など数多くの販売促進プランに取組んでいるとします。ご契約いただいたお客様には都度どの様な媒体を見てお声がけいただいたのかお伺いするのですが、複数回答も多いためいまひとつどの媒体の効果が最も高いのか?わかりません。でもデータベースを使えば一目瞭然。「どのキャンペーンが何パーセントで最も効果があった」かまで、クリック一つであきらかになります。また必要費用などを打込み設定することで、費用対効果までも簡単に算出できます。

 

 弊社では「お客様との全てのやり取り」をデータベース上に記録することをお勧めしています。最近多い「言った」「言わない」によるトラブルを防ぐことはもとより、「どのスタッフがどのぐらいの工数をかけて担当業務をこなした」まで記録することで、スタッフ間の切磋琢磨につながったり、個々のスタッフの特性を見極めた教育までもが可能になったりするからです。

 ITという言葉を出すと「管理される」的なニュアンスで嫌がられる方もまだまだ多いのですが、「所詮はただの便利グッズ」

人間の技術や判断を超える事はありません。IT技術は「良い判断を下す手助け」をしたり「本来の技術をたくさん発揮できる時間」を生み出すためのツールなのです。

 貴社の未来が輝く為に、是非、適切なIT技術との出会いが有りますことを願っております。

(壱号)

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